職人やアーティストたちへの讃歌

織物のアートからルミナリエ―眩暈を起こさせるような光の遊び―まで、そしてダンスの持つ本質的な役割から儀式的な音楽の力まで、House of Diorはこの多元的で無限の力を持つ貴重な文化を積極的に採り入れながら、自然、そしてマリア・グラツィア・キウリが深い思い入れを持つこの土地特有の風景に敬意を払っています。

レ・コンスタンティーネ財団

母から子へと受け継がれた精神や信念を伝えるため、1982年にジュリアとルチアのストラーチェ姉妹、そしてその従姉妹であるルチア・デ・ヴィーティ・デ・マルコが設立したレ・コンスタンティーネ財団は、伝統的なクラフトや責任ある文化に関する教育を通じ、生きた遺産を守ることで、プーリア地方を発展させ、活気づけることを目的としています。地中海沿岸の美しい環境にあるこの施設では、もてなしの心、自然への敬意、ジェスチャーの美しさが伝えられています。これは、マリア・グラツィア・キウリが大切にし、現在これまでになく不可欠になっている価値を体現したものと言えます。
「Amando e Cantando」と名付けられたレ・コンスタンティーネのアトリエ。その名は、代々女性たちに受け継がれたテキスタイルを織る際に今でも歌われる伝統的な歌に敬意を表して付けられました。この歌は、生きる喜びと彼女たちを駆り立てる創造への情熱のオードなのです。この施設には、代々伝えられた技法を用いてこれらのファブリックに命を吹き込む、貴重な織機が置かれています。
2021年クルーズショーでハイライトされた、主にバイカラーでデザインされたこれらの繊細な織りのテクニックは、コレクションのさまざまな部分で見ることができます。また、スカートにはアトリエのモットー*が刺繍され、そのエクセレンスが表現されています。
*「Amando e Cantando」は、「愛し、歌う」を意味します。

    フラテッリ・パリージ

    レッチェ県のタウリザーノに拠点を置くフラテッリ・パリージは、1876年に設立されました。守護聖人の祝祭をはじめとする祭りの際に、地域の通りや宮殿を美しく照らし続けてきました。ルミナリエの伝統に忠実な彼らの作品は、街の魅力の一部であり、一体感と共有の感覚を味わえるときを生み出しています。2021年のクルーズ コレクションでは、マリネッラ・セナトーレの作品がハイライトとなっています。これは、ビューロー・ベタックのサポートを受けてシーンをデザインしたもので、これはまさに、ファッション、伝統的なクラフトマンシップ、闘志あふれる現代アートの間に広げられた魅惑的なダイアローグと言えるでしょう。

      アゴスティーノ・ブランカ

      アゴスティーノ・ブランカは、イタリアのプーリア州の中心部に拠点を置く職人、陶芸家です。1959年にレッチェ県スペッキアに生まれた彼は、サレント半島の伝統的な技術を専門としています。これらの技術の研究に引き続き、1987年にレッチェで「手作業で描いた」という意味を持つ「Dipinto a Mano」(ディピント・ア・マーノ)という名の自身のワークショップを立ち上げました。自身の創作を通して、彼はこれらの文化的、歴史的な伝統に敬意を表しつつ、新しいプロセスを開発し、特有のより現代的なスタイルを生み出し続けています。芸術作品と同様、彼の作品はイタリア全土に展示されただけでなく、ニューヨークや北京にまで旅をしました。
      マリア・グラツィア・キウリによる2021年のクルーズ コレクションにおいて彼は、タロットカードや、太陽や克己などタロットのテーマを再解釈し、そこに南部イタリアやサレントを象徴する野の花や小麦、ハーブなどを組み合わせたデザインのプレートを作成しました。

        マリレーナ・スパラーシ

        トンボロは非常に繊細なレース細工で、15世紀にイタリアで生まれ、16世紀にヨーロッパ中に広まりました。特に南イタリアで見られるこの刺繍は、丹精込めて丁寧につくられます。世代を超えて受け継がれてきたこの刺繍は、現在手掛ける人が減少しています。最初に、厚紙または紙の上にモチーフが描かれます。モチーフは、通常円筒形の小さなクッションにピンで留められ、ステッチで再現されます。このプロセスには、イタリア語でフゼッリと呼ばれる専用の木製の糸巻きが用いられます。その数は、手順の複雑さを表しており、糸を結んだり、ねじったり、縛ったりするために使用されます。
        レースは、ディオールの2021年クルーズ コレクション用にデザインされたフラワーやパピヨンに命を吹き込みます。それらのモチーフの1つにつき、最大15時間の作業が必要です。マリレーナ・スパラーシは、この技術を実践し、教える、最後の刺繍職人の1人です。マリア・グラツィア・キウリがデザインしたドレスに施されたこの装飾は、まさに洗練の極みです。それは、プーリアの豊かなクラフトマンシップの遺産の象徴である、この卓越した伝統的なサヴォワールフェールへのオマージュなのです。

          ピエトロ・ルッフォ

          • 1978年ローマ生まれのピエトロ・ルッフォは、ローマ大学で建築を学び、その後ニューヨークの名門コロンビア大学で研究奨学金を取得しました。ドローイング、水彩、彫刻などを手掛ける彼の作品は、入念な創造的プロセスを必要とする、複雑で細かいディテールが特徴です。ピエトロ・ルッフォは自身の芸術を通じて、自然や自由など、自らの思考プロセスの中心となる社会的、倫理的、政治的な幅広い問題を探求しています。2021年のクルーズ コレクションにおいては、マリア・グラツィア・キウリと常に対話を続け、3か月で250を超えるイラストを描き、1638年にジョバンニ・バッティスタ・フェッラーリが出版した「デ・フロラム・クルトゥーラ」からインスピレーションを得た5つのフローラルモチーフを完成させました。「Les parfums sont les sentiments des fleurs*」(香りは花々の想い)などの格言で飾られた彼の魅惑的なドローイングは、ディオールのアトリエのサボワールフェールが磨き上げたシルエットと相まって、生き生きと輝いています。それは見る人を、プーリアの手つかずの風景が持つ永遠の美しさを思い起こさせる、心の旅へといざなうでしょう。

            *ドイツの作家であり詩人であるハインリヒ・ハイネ(1797-1856)による随筆紀行文Die Harzreise(ハルツ紀行)の中の言葉。

          © Antonio Maria Fantetti